人間作業モデルは、作業療法学における臨床的実践モデルの一つです。
このモデルは、人が意志、習慣化、遂行能力を持ち、その環境を通して適応行動を発達させていく理論を指します。
具体的には、人間作業モデルは以下の要素を含んでいます:
**意志 (Volition)**: 人々の目標や価値観、意欲、選択に関連する要素。
**習慣化 (Habituation)**: 習慣や日常的な行動パターン、ルーチンに焦点を当てた要素。
**遂行能力 (Performance Capacity)**: 身体的、認知的、感情的な能力やスキル。
**環境 (Environment)**: 周囲の物理的、社会的、文化的な要因。
これらの視点から対象者の評価・分析を行い、生活の不活発に陥っている原因は何なのかを追求していきます。
私が実践する時には
人間作業モデルスクリーニングツールでまずは全体像をおさえ、
臨床的疑問を持ち、
それらを明らかにするためにより詳細な評価を実施します。
アプローチ例
一つの実践事例として、人間作業モデルを用いて、ある患者さんの日常生活の遂行能力を向上させるケースを考えてみましょう。
例えば、高齢者の方が自宅での日常生活において、入浴や着替え、食事の準備などの作業に困難を抱えている場合、以下のアプローチが考えられます。
1. **意志の強化**: 患者さんとの対話を通じて、彼らの目標や価値観を理解し、モチベーションを高めます。
2. **習慣化の促進**: 日常的なルーチンを整理し、入浴や食事の時間を設定することで、習慣化をサポートします。
3. **遂行能力の向上**: 運動療法や認知療法を通じて、身体的な能力や認知スキルを向上させます。
4. **環境の調整**: 家庭環境を改善し、バリアフリーの設計や支援具の導入などを行います。
このように、人間作業モデルは患者さんの個別のニーズに合わせて、適切なアプローチを提供するための有用なツールとなります。
私が以前、特別養護老人ホームにて勤務していた頃も人間作業モデルは大活躍でした。
ただ関節可動域を維持するための訓練ではなく、対象者の意志を引き出すための声かけや興味に合わせた環境設定によって、改善を促すことができます。まさに作業療法士の専売特許、といったところです。
歴史
日本において人間作業モデルがどのように発展してきたかについて、以下の歴史的過程が明らかにされています。
初期の導入: 1980年代の後半に、日本作業療法学会で「作業療法の核を問う」というシンポジウムが開催され、人間作業モデルの提唱者であるギャーリー・キールホフナーが招かれました。このことで、日本におけるMOHOの展開が始まりました。
テキストの翻訳と普及: 1983年に山田が『作業行動と人間作業のモデル』を自費出版し、1990年には『人間作業モデル ─ 理論と応用 ─』を翻訳・出版しました。これにより、日本の作業療法士にMOHOの知識が広まりました。
テキストの改訂と普及: 『人間作業モデル ─ 理論と応用 ─』は1999年から2012年の間に第4版まで翻訳・出版され、日本におけるMOHOの展開が続いています。
MOHOの利用と今後の課題: MOHOは日本の作業療法に影響を与えてきましたが、プログラム開発や研究にはまだ十分に着目されていないとされています。今後はエビデンスをさらに構築する目的で、人間作業モデルを用いることが求められています。
このように、人間作業モデルは日本の作業療法の発展において重要な役割を果たしてきました。
ただ、せっかく対象者の生活を改善するのに有用なモデルにも関わらず、周囲に活用しているセラピストがあまりいない印象です。
人間作業モデルの対象
人間作業モデルは、さまざまな疾患や状態に適用されます。具体的な疾患や状態に応じて、以下のようなケースで人間作業モデルが活用されます。
- 神経・筋骨格系の障害: 脳卒中、外傷性脳損傷、筋ジストロフィーなどの疾患において、遂行能力の向上や日常生活の習慣化をサポートします。
- 精神疾患: 統合失調症、うつ病、自閉症スペクトラム障害などの精神疾患において、意志や習慣化の強化、遂行能力の向上を目指します。
- 老年性疾患: 認知症、老化に伴う身体的な制約などに対して、遂行能力の維持や習慣化の促進を支援します。
ただし、具体的な疾患においては、個別のニーズや症状に合わせてアプローチを調整する必要があります。
人間作業モデルは、患者さんの個別の状況に適切に適用されることで、効果的な作業療法を提供します。
歩けなくなっている=筋力低下=リハビリで筋力をつけよう!という単純なものではなく、
対象者の生活の不活発は何が原因で引き起こされているのか?という視点で考えます。
その結果、筋力低下が関係するならば筋力をつけることは大切です。
しかし対象者の興味が賦活される環境になく、意志が低下し、不活発を引き起こし、筋力低下しているとすれば、
興味を聴取したり、
意志を高める声かけをしたり、
筋力以外のアプローチ方法が選択肢として挙がってきます。
そしてその結果、生活が活性化する。
これが作業療法の素晴らしさだと思っています。